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ダーウィンの日記1835年3月29日と30日 [ダーウィンの日記]

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メンドサから山間部へ向かう道の現在(ダーウィンはこの付近の荒れ地をウマと荷を積んだラバ10頭とで進んだ)


ダーウィンの日記(アンデス山脈横断; メンドサから出発してウスパリャタの峠[Paso de Uspallata]に向かう)

[日記仮訳]

(1835年3月)29日

この日、私たちは15リーグの長くてとても不毛な荒れ地[注]を渡らねばならなかった。もちろんメンドサの町はずれを過ぎれば水はないし、一軒の家もない。この平原は海抜で2000~3000フィート[610~914m]の高さがあるのだが、太陽が過度なまでに力強く、これと細かい埃の雲が相俟って旅をとてもうんざりするものにしている。
[注] 原文"Traversia"。アンデス方言で乾燥した平原を意味する"travesia"のことだと思われます。

一日中、山脈に平行に、というよりは次第にそれに近づきながら騎行を続けた。ついに、広い谷つまり山あいに開けた平原のひとつに入った。これはじきに山峡に狭まり、少し登ればビリャ・ビセンシオの家[注]がある。
[注] 下の地図および画像1~3参照。

私たちは一日中水なしにウマに乗っていたのでとても渇いていて、谷を下る流れを切望しつつ一生懸命探した。 水がいかに少しずつ姿を現すものであるかという事は興味深い。砂利の広大な平原の縁において走路は全く乾いていたが、次第にそれは湿り気を帯び、いくつか水たまりがあるほどにまでなる。やがてこれらはつながり、ビリャ・ビセンシオにおいては小川の流れとなったのである。

30日

ビリャ・ビセンシオという堂々とした名前を持つ孤独な小屋はすべての旅行者によって言及されている。私は地質を調べるために半日滞在した。

夕方、オルニリョス[注]まで2~3リーグの距離をウマに乗り、次の日はそこに留まった。
[注] 後の『ビーグル号航海記』(1845)ではこの"オルニリョス"という名前は出ておらず、"近くの鉱山"としてだけ言及されています。"2~3リーグ"の距離とは11.2km~16.8kmなのですが、直線距離なのかそれともつづら折りの坂道(画像3参照)に沿っての道のりなのか、どちらかによって当然到達場所が異なるわけで、直線距離とすると、夕方に出発してつづら折りの道を10頭のラバを連れて進める距離としては長過ぎるように思われます。それでもまず、この距離が正しいとして、また直線距離であるとすれば、その鉱山とは今のパルミリョスの鉱山跡(下の地図2と画像4)ということになるかと思われます。他方、道のりでの距離だったとすると、その方が現実的なのですが、ダーウィンがここで言及しているのは現在は放棄されてほとんど記録のない別の場所のことであると考えられます。なお、この日に到達したかどうかに関わらず、パルミリョスの鉱山跡付近でダーウィンは地学上の重要な発見をしており、そのことについては次回の注釈にて触れることになります。

[画像1] ビリャ・ビセンシオへの道..
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画像出典: http://www.panoramio.com/photo/6085028

[画像2] ビリャ・ビセンシオの現在(ダーウィンが訪れた当時は"掘っ立て小屋")..
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画像出典: http://www.panoramio.com/photo/930642

[画像3] ビリャ・ビセンシオを過ぎてアンデス山脈方向への道の現在..
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画像出典: http://www.panoramio.com/photo/930598

[画像4] パルミリョスの鉱山跡..
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画像出典: http://www.panoramio.com/photo/4571958

[地図1] ビリャ・ビセンシオ..

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[地図2] パルミリョスの鉱山跡..

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[日記原文]
29th
We had to cross this day a long & most sterile Traversia of 15 leagues. — There is no water, & of course beyond the outskirts of Mendoza, not a single house. On this plain although elevated from 2 to 3000 ft above the sea, the sun is excessively powerful; this together with the clouds of fine dust renders the travelling very irksome. — We continued riding all day nearly parallel to, or rather gradually approaching to the chain of mountains; at last we entered one of the wide valleys or bays which open on the plains; this soon narrowed into a ravine, a little way up which is the house of Villa Vicencio. — As we had ridden all day without any water, we were very thirsty, & looked out anxiously for the stream which flows down the valley. — It was curious how gradually the water made its appearance; on the edge of the grand plain of shingle the course was quite dry, by degrees it became damper, till there were puddles of water; these soon were connected, & at Villa Vicencio there was a small running brook. —
30th
The solitary hovel which bears the imposing name of Villa Vicencio has been mentioned by every traveller. I staid half a day to examine the geology. In the evening rode a few leagues on to Hornillos, where I stopped the ensuing day.

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["ダーウィンの日記(III)"について]
ここで扱っているのはダーウィンがビーグル号で航海に出ている時期の日記です。訳文は私的な研究目的に供するだけの仮のものです。普通は全文を訳します。また、ダーウィンが日記を書いた当時の世界観を出来るだけそのままにして読む事を念頭に置きますので、若干の用語の注釈を除いては、現代的観点からの注釈は控え気味にしてあります。
[日記原典] Charles Darwin's Beagle Diary ed. by R.D.Keynes, Cambridge U.P., 1988.
1835年1月1日より前のダーウィンの日記へはページ左のリンク集が入り口となります。

冒頭画像出典: http://www.panoramio.com/photo/6084856
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アマデウス

Darwinの様な丸一日というのは厳しいですが、
Villavicencio周辺への乗馬観光案内が掲載されています。
の~んびり乗馬の旅も楽しいですね。
http://www.argentinacontact.com/turismo/es_tour/Cabalgata-Andina-10.html
by アマデウス (2009-05-13 06:05) 

さとふみ

アマデウス さん..
リンクありがとうございます。
訳文では"荒れ地"としている部分のダーウィンの原文は"Traversia"となっていて、はじめこれはどういう語か不思議に思って"Travesia(アンデスの方言で乾燥した平原を指す)"のことだろうということで"荒れ地"としました。アマデウスさんのリンクには"travesía"の語が見えています。
by さとふみ (2009-05-13 07:39) 

アマデウス

リンクにある”Travesia”は単に“journey”又は “voyage”の意味ですが
“Travesia a Caballo’’とすると何となく「馬に乗ってかなりな道のりを旅する」
というニュアンスが出てきますが、邦訳は「旅」とか「道程」あるいは「航程」ということになるのでしょうか。。。


by アマデウス (2009-05-13 12:10) 

さとふみ

コメントありがとうございます。
ダーウィンが特にスペイン語で書く場合は一般の意味ではなく特殊な意味を含んでいると見るので、私は、これはアンデスの方言としての用法で、"乾燥した平原"の意だと解釈しています。
たとえば、次の辞書のリンクで、そのような意味があることがわかります..
http://www.spanishdict.com/translate/traves%C3%ADa
by さとふみ (2009-05-13 12:31) 

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