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ダーウィンの日記1836年9月21日 [ダーウィンの日記]

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テルセイラ島中央部の噴気口のひとつ


ダーウィンの日記(大西洋; アゾレス諸島、テルセイラ)

[日記仮訳]

(1836年9月)21日
[英国ファルマス到着の11日前]

翌日、領事が親切に私に彼の馬を貸し与えてくれて、島の中央の活動中の火口だとされている地点まで行く案内人を用意してくれた。両側の石壁が高い深く刻まれた小道を登って行き、はじめの3マイルの間私たちは多くの家屋と庭を通った。その後かなりでこぼこした平野部に入った。そこは比較的最近の玄武岩質溶岩の流れの丘から出来ていた。岩のある部分は約3フィート[0.9144m]の丈の濃い芝で、そしてまた他の部分はヒース、シダ、それから丈の低い牧草で覆われていた。いくつかの砕け落ちた古い石壁があってウェールズの山々との類似を完全なものとしていた。 そのうえさらに、英国での昔なじみの昆虫や鳥たち、つまりムクドリ、ハクセキレイ、ズアオアトリやクロウタドリを私は見出した。

ここの高い中央部には家屋はなく、地面はウシやヤギの放牧のためだけに使用されている。どちらの側面にも比較的古い溶岩の稜線と様々な大きさの錐体があって、それらは火口形の頂上をまだ部分的に保持していて、壊れ落ちた所には製鉄所からのものと同じような燃え殻の積み重なりが見えていた。

いわゆる火口に到着してみると、私にはそれがちょっとした陥没、あるいはむしろ高地に隣接した出口のない短い谷であることが分かった。底部はいくつもの大きなひび割れが横切っていてそこから、ほぼ1ダースの地点であるが、蒸気の小さな噴出が出ていて、蒸気機関のボイラーのひび割れからのようになっていた。不規則な開口部近くの蒸気は手をかざすには熱すぎる。ほんのわずかの臭気しかないのだが、鉄で出来ているもの全ては黒くなるのであり、また皮膚にたいしては特異な刺激があることからするとこの蒸気は純粋ではあり得ず、私が思うにはそれはいくらかの塩酸の気体を含んでいるのであろう。 周りの粗面岩状の溶岩に及ぼすその効果は奇妙なもので、しっかりとした石が全体に純粋な純白の陶土に変えられるか、あるいは一種の明るい赤ないしは2色で大理石模様になっている。蒸気は湿って熱い粘土を通して噴き出しているのである。この現象が長年このように続いて来ている。かつて裂け目から炎が出たと云われている。雨の間、各堤からの水がこれらの裂け目に流れ入るに違いなく、まさしくこの水がなんらかの熱せられた地中の溶岩の近くに滴り落ちることによってこの現象が起きるということはありそうな事である。
この島全体で地中の力が昨年は常ならず活動的であって、アングラの町からさほど遠くない海に突き出している険しい崖から数日間蒸気の噴出があったのである。


私はこの日の騎行を楽しんだのだが、見るに値するものをそれほど見たわけではなかった。かくも多くの立派な農夫たちに出会ったのは楽しい事であった。これらの人々ほども顔立ちが良くて陽気な表情をした一群の若い男たちを見た記憶がない。男たちや男の子たちはみんな簡素な上着とズボンを身につけて靴や靴下は履いていない。その頭は、小さな青い布で出来て赤い耳当てと縁取りのある帽子でかろうじて覆われている。これを、見知らぬ人が通るごとにもっとも丁寧なやり方で頭から取るのである。その衣服はぼろではあるが、その人格とともに非常に清潔なようである。
ほとんど全ての小屋において訪問者は真っ白のシーツで泊まることが出来て清潔なナプキンで食事が出来るのだと私は聞かされている。各人は手に大体6フィート[1.83m]の杖を持っている。各々の端に大きなナイフがくくり付けられていて、彼等はこれを恐るべき武器とする事が出来る。血色の良い肌つや、輝いた目および真っ直ぐに立った歩み、といったものは立派な農夫の概念そのものである。ブラジルのポルトガル人とのなんという相違であろうか!

この日出会った者の多くは薪とする枝を山で集める事に従事していた。全家族が、父親から最年少の子供まで、各々が頭に薪束を載せて町に売りに行く事さえ見られたということかもしれない。その荷はとても重くて、この重労働とその衣服のぼろぼろの状態が貧困をあまりにもはっきりと物語っていた。しかし、聞かされたところでは、それは食料の不足ではなくて、すべての贅沢品の不足だということである。これはチロエでの場合と類似したことである[注]
[注] ダーウィンの日記の1834年7月13日付けの記事を参照..
アーカイヴ記事: http://fumisalt.blog.so-net.ne.jp/2009-03-08


そういうわけだから、全島が耕作されているわけではないのだけれど、現在では、多くがブラジルに移民して行くのである。そちらで結ばれる契約は奴隷とほとんど変わらないものなのであるが。かくも立派な人々が、食料、肉、野菜と果物の各々の品が極めて安くてとても豊富であるような豊穣の地を離れて行かざるを得ず、労働者は相対的に価値の少ない労働を見出すことになっているとは、残念なことである。

[地図] アゾレス諸島、テルセイラ島 (緑色のマップポインターはビーグル号の停泊したアングラ泊地)..

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[天候]
1836年9月21日午前10時の天候:
変わりやすい風、風力1、全天曇り、雲、、気温摂氏22.2度。


[日記原文]
21st
The next day the Consul kindly lent me his horse & furnished me with guides to proceed to a spot, in the centre of the island, which was described as an active crater. — Ascending in deep lanes, bordered on each side by high stone walls, for the three first miles, we passed many houses and gardens. We then entered on a very irregular plain country, consisting of more recent streams of hummocky basaltic lava. The rocks are covered in some parts by a thick brushwood about three feet high, and in others by heath, fern, & short pasture: a few broken down old stone walls completed the resemblance with the mountains of Wales. I saw, moreover, some old English friends amongst the insects, and of birds, the starling, water wagtail, chaffinch and blackbird.
There are no houses in this elevated and central part, and the ground is only used for the pasture of cattle and goats. On every side, besides the ridges of more ancient lavas, there were cones of various dimensions, which yet partly retained their crater-formed summits, and where broken down showed a pile of cinders such as those from an iron foundry. —

When we reached the so called crater, I found it a slight depression, or rather a short valley abutting against a higher range, and without any exit. The bottom was traversed by several large fissures, out of which, in nearly a dozen places, small jets of steam issued, as from the cracks in the boiler of a steam engine. The steam close to the irregular orifices, is far too hot for the hand to endure it; — it has but little smell, yet from everything made of iron being blackened, and from a peculiar rough sensation communicated to the skin, the vapour cannot be pure, and I imagine it contains some muriatic add gas. — The effect on the surrounding trachytic lavas is singular, the solid stone being entirely converted either into pure, snow white, porcelain clay, or into a kind of bright red or the two colours marbled together: the steam issued through the moist and hot clay. This phenomenon has thus gone on for many years; it is said that flames once issued from the cracks. During rain, the water from each bank, must flow into these cracks; & it is probable that this same water, trickling down to the neighbourhood of some heated subterranean lava, causes this phenomenon. — Throughout the island, the powers below have been unusually active during the last year; several small earthquakes have been caused, and during a few days a jet of steam issued from a bold precipice overhanging the sea, not far from the town of Angra.

I enjoyed my day's ride, though I did not see much worth seeing: it was pleasant to meet such a number of fine peasantry; I do not recollect ever having beheld a set of handsomer young men, with more good humoured pleasant expressions.1 The men and boys are all dressed in a plain jacket & trowsers, without shoes or stockings; their heads are barely covered by a little blue cloth cap with two ears and a border of red; this they lift in the most courteous manner to each passing stranger. Their clothes although very ragged, appeared singularly clean, as well as their persons; I am told, that in almost every cottage, a visitor will sleep in snow white sheets & will dine off a clean napkin. Each man carries in his hand a walking staff about six feet high; by fixing a large knife at each extremity, they can make this into a formidable weapon. — Their ruddy complexions, bright eyes & erect gait, made them a picture of a fine peasantry: how different from the Portugeese of Brazil! —
The greater number, which we this day met, were employed in the mountains gathering sticks for fire-wood. — A whole family, from the father to the least boy, might be seen, each carrying his bundle on his head to sell in the town. Their burthens were very heavy; this hard labour & the ragged state of their clothes too plainly bespoke poverty, yet I am told, it is not the want of food, but of all luxuries, a case parallel to that of Chiloe. —

Hence, although the whole land is not cultivated, at the present time numbers emigrate to Brazil, where the contract to which they are bound, differs but little from slavery. It seems a great pity that so fine a population should be compelled [to] leave a land of plenty, where every article of food, meat, vegetables & fruit, — is exceedingly cheap & most abundant, 2 but the labourer finds his labour of proportionally little value.–

1 Followed by deleted sentence: 'A surprising number of the boys had white or lightly coloured hair, which from its strangeness to our eyes made it the more pleasing.'
2 The following page is numbered both 764 and 765.


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["ダーウィンの日記(III)"について]
ここで扱っているのはダーウィンがビーグル号で航海に出ている時期の日記です。訳文は私的な研究目的に供するだけの仮のものです。普通は全文を訳します。また、ダーウィンが日記を書いた当時の世界観を出来るだけそのままにして読む事を念頭に置きますので、若干の用語の注釈を除いては、現代的観点からの注釈は控え気味にしてあります。
[日記原典] Charles Darwin's Beagle Diary ed. by R.D.Keynes, Cambridge U.P., 1988.
1835年1月1日より前のダーウィンの日記へはページ左のリンク集が入り口となります。

冒頭画像出典: http://www.panoramio.com/photo/14440018



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コメント 11

SAKANAKANE

>かくも立派な人々が、~豊穣の地を離れて行かざるを得ず
考えさせられますね。
by SAKANAKANE (2009-12-30 08:33) 

さとふみ

SAKANAKANEさん..
コメント、ありがとうございます。

ブラジルで成功した人たちもいるわけでしょうけれど、当初は苦労があったでしょうね。
この時期以降もしばらくはブラジルでは(黒人)奴隷の制度が続いていたわけで、アゾレスの方が本当は気楽だったでしょうが。
 
by さとふみ (2009-12-30 08:51) 

zenjimaru

これだけの長文を翻訳されるさとふみさんに敬服しますが
ご自宅の屋根裏に猫やへびを飼われているとは驚きました(爆)
京都だけに相当格式あるお屋敷とお見受けしました^^
お世話になりました、良い年をお迎え下さい
by zenjimaru (2009-12-30 09:23) 

さとふみ

zenjimaruさん..
飼っているんではなくて、勝手に住んでる(訪ねて来る)んです(笑)。

よいお年を..

 
by さとふみ (2009-12-30 09:42) 

春分

あと少しでイギリスですね。
by 春分 (2009-12-30 16:36) 

さとふみ

英国ファルマスで下船してからのダーウィンの日記はある意味で不思議な内容でしばらく進行します。
by さとふみ (2009-12-30 17:38) 

水郷楽人

今年1年お世話になりました。(^^)。。来年もよろしく。。
良いお年をお迎え下さいね。 m(_ _)m。。

by 水郷楽人 (2009-12-30 21:00) 

kaoru

おはようございます。
私の知らない世界のことをいつも
教えて下さりご訪問頂き今年も
大変お世話になり有難うございました。
来年も宜しくお願い致します。
よいお年をお迎えください。
by kaoru (2009-12-31 09:14) 

Krause

今年は、ブログを通じてお世話になりました。
2010年も宜しくお願い申し上げます。
良いお年をお迎えください。
by Krause (2009-12-31 12:03) 

デザイン屋

今年一年ありがとうございました。
2010年もよろしくお願いいたします。
by デザイン屋 (2009-12-31 12:41) 

ヤヨ

今年もあと数時間。
よい年をお迎えくださいね~^^
名古屋は雪になりそうです。
by ヤヨ (2009-12-31 21:02) 

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